東アジア共同体とクリーン開発制度設計
中央大学経済学部 
緒方研究室 緒方俊雄

 東アジア共同体構想は、最近のグローバリゼーションの動向に対して新たな検討課題を提供している。経済開発の途上国の多いアジア地域では、経済開発の「離陸」がはじまると同時に、公害や環境破壊も波及し始め、多くの経済弱者を苦しめている。その結果、貧困の悪循環のみならず、環境破壊の悪循環を引き起こしている。そうした現状を打破すべく、現地のフィールド調査(共同研究)に基づき、アジアの環境協力機構を策定し、21世紀を「アジアの世紀」としたい。
 そのために、特に2005年の2月に地球環境問題にかかわる『京都議定書』が発効されることは新しい段階を迎えることを意味する。それは、新たに途上国の環境保全、とりわけアジアの開発と環境の問題に対する取り組みの具体化を推進する必要があるからである。当該プロジェクトは、最近の国際会議での議論の趨勢を基礎に、『京都議定書』の排出権に関する途上国と先進国との間の「クリーン開発メカニズム(CDM)」について、「社会的共通資本」の枠組みを活用しながら、具体的な政策を提案するものである。

 

 現在、東アジアは経済発展の「離陸」を成し遂げ、急速な経済成長の段階に入り、しかも東アジア諸国のGDPを合計すると、世界最大のシェアを占めるに至っている。しかし、現在の東アジアは、かつて先進国が「豊かさの病」であった公害問題をさらに深刻化し、「貧困と環境破壊の悪循環」として経験し、経済格差の原因ともなっている。
「逆U字型環境クズネッツ曲線」が示唆したことは、高度成長は、最初、公害を発生させるが、所得水準が発展すると、やがて公害問題を克服する技術を発展させることができるようになるために、公害問題は解決されるというものである。しかし、先進国の経験から、地球温暖化や生物種多様性喪失などの地球規模の環境問題には、この考え方が適応できていない。したがって、途上国が経済開発第一主義を優先させることによって公害問題を解決するという体制では、ますます地球環境問題が深刻化することは明らかである。先進国が、地球環境問題に対する「国際環境協力」の体制を組織し、公害問題の対する技術支援とともに、地球環境問題の解決に同じテーブルで議論できるような枠組み作りが必要である。

 

 現在、東アジアの環境問題は、農業の拡大化・工業化に伴う森林減少、工業化に伴う産業公害の発生、人口増大による都市肥大化とモータリゼーションによる都市公害などである。それらは、市場経済の発展と社会的共通資本の整備の遅れによる不均衡によって把握できる。ここにおける「社会的共通資本」は、「社会資本」、「自然資本」、「制度資本」から構成されるもので、宇沢弘文教授の展開する経済理論の具体化を試みることである。東アジア諸国は、「社会資本」としてのインフラの整備、「自然資本」としての自然環境の保全を目指し、先進国の開発と環境関連の法制度を整備し導入する傾向にあるが、国内の「制度資本」としての人材育成・技術の内発的開発・金融制度の整備などが追いつかず、そこでも不均衡を引き起こしている。

 

 従来、環境政策はコスト高をもたらす厄介物という誤った認識が支配していたが、最近のOECD諸国の実証研究によると、環境税等の環境政策の導入により既存の制度体系のゆがみを是正し、しかも環境保全に寄与するという意味でプラスの効果があるとともに、環境投資による雇用創出効果が汚染企業の排除による失業分を上回る純効果もっていることが実証されている。それは、石油や石炭等の枯渇性資源の限界を克服し、新しい環境ビジネスを成長させ、自然と経済の調和をもたらす産業エコロジーを育成する。また、こうした経験は、途上国が先進国の経験した環境破壊と同じ軌道を歩むことなく、「学習効果」と「環境協力」を得て、地球環境を保全しながら経済開発を進めることができ、東アジアの経済開発の持続性を導くことを示唆している。

 

 地球温暖化を防止するために、国連(UNFCCC)は、二酸化炭素(CO2)等の温室効果ガス(GHG)」の排出規制を設ける『京都議定書』をめぐって国際的な枠組み・制度設計の議論と調整を推進している。またそれを支える補助手段として、(1)「排出権取引(ET)」、(2)「共同実施(JI)」、(3)「クリーン開発メカニズム(CDM)」が設けられ、すでに「排出権取引」や「共同実施」については、先進国間で排出抑制の機構が組織化されつつある。最近の地球温暖化防止国際会議COPのサイドイベントでは、いくつかの国が「クリーン開発メカニズム(CDM)」を戦略的に着手している事例も紹介されている。しかし、他方では、途上国は、経済開発第一主義、環境保全のための人材の不足、公害対策技術の遅れ、環境投資のための資金不足など、「社会的共通資本」の制約のために、持続可能な開発を推進することが困難であるという実情も指摘されている。先進国と途上国の橋渡しをするために、「クリーン開発メカニズム(CDM)」のあり方を具体化し、東アジア環境政策を策定する必要がある。

 

 東アジアの環境と経済開発を両立させるためには、上記の制約を取り除き、途上国の関係諸機関と共同研究・教育体制を組織しながら、具体的な環境政策を提案する必要がある。そのために、中央大学は、研究開発機構・地球環境研究ユニット(CRUGE)を設置し、「アジア地球環境フォーラム」を組織し、また政策文化総合研究所では「米中関係・国際ワークショップ」の共同研究を通じて中国・清華大学と交流協定を締結してきた。また総合政策学部の「国際インターンシップ」や経済学部の「アジアインターンシップ」を通じて、インド、タイ、ベトナム、オーストラリアでの現地研修プログラムを設けている。また世界銀行の「遠隔TV講義」(GDLN)担当で交流してきたベトナム・タイ・スリランカ・カンボジア・ラオス・マレイシアなどのアジア諸大学および政府関係機関と協力して、有能な人材を育成組織しながら、「クリーン開発・環境協力委員会(仮称)」を設置する予定である。
 さしあたり、今年、国際交流協定を締結するハノイ国民経済大学・フエ大学、さらにフエ農林大学、カントー大学およびベトナム政府(工業省・自然資源環境省・生態研究所等)、同志社大学(宇沢プロジェクト)、東京農工大学(平田プロジェクト)との研究交流を通じて、ベトナムのクリーン開発の具体化について国際共同研究を組織化してきた経緯があるので、その計画を具体化する。
 同時に、資金と技術の支援可能な日本の法人企業、経済協力を目指すJICAやJETRO、地球環境保全を目指す日本環境財団、そしてアジアの人材育成を目指す岩国育英財団等の支援を得て、共同運営機関を組織し、日本側の組織と途上国側の組織との間の仲介機構を担う予定である。

 具体的な共同研究の課題は、「ベトナム国2000ヘクタール土地利用権」の共同活用を通じて、下記の共同研究と事業化を試みる。

  1. 森林再生と農村開発(ベトナム政府:「500万ha森林再生計画」支援)
  2. 環境保全林再生とCDM(『京都議定書』排出権取引)
  3. バイオ・エネルギーと農村開発(『京都議定書』排出権取引)
  4. 枯葉剤等による森林破壊地区の森林再生(『京都議定書』排出権取引)
  5. メコン河流域の森林再生(ベトナム政府:「500万ha森林再生計画」支援)
  6. 紅河デルタにおけるマングローブ林再生とエコツーリズム
  7. ベトナムの経済開発と伝統的な都市保全:「都市ルネッサンス」

などである。

戻る